「この銘柄、買いですか?」に答えられなかった話

社長仲間との飲み会で、「最近この会社の株、上がってるらしいよ。
買った方がいいのかな」と聞かれたことがある。

正直、その場では何も答えられなかった。
値上がりしているという「結果」は知っていても、なぜその会社が伸びているのか、どこを見れば確認できるのかを知らなかったからだ。

この記事は「どの銘柄を買うべきか」を教える記事ではない。むしろその逆で、誰かに聞かなくても自分で調べて判断できるようになるための「調べ方」だけを、初心者から上級者まで段階的にまとめたガイドだ。
特定の銘柄や通貨ペアを名指しして「買い」「売り」と推奨することはしないし、「これで儲かる」といった断定もしない。
あくまで判断材料を集めるための方法論として読んでほしい。

なぜ「調べ方」を知ることが投資の土台になるのか

個人投資家が投資判断に活用する情報源
インターネット(Webサイト): 37.9%インターネット(Webサイト)37.9%SNS(動画・画像系): 10.5%SNS(動画・画像系)10.5%新聞・雑誌: 9.4%新聞・雑誌9.4%
データを表で見る
項目
インターネット(Webサイト)37.9%
SNS(動画・画像系)10.5%
新聞・雑誌9.4%
出典: 日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書」(2025年9月)

株価が上がった・下がったというニュースだけを追いかけていると、いつまで経っても「他人の結論」を追認するだけになってしまう。

日本証券業協会の調査(2025年9月)によれば、個人投資家が投資判断に最も活用する情報源は「インターネット(Webサイト)」で37.9%、次いでSNS(動画・画像系)が10.5%、新聞・雑誌が9.4%となっている。
多くの人がネットで情報を集めているのは間違いなさそうだが、その集め方・読み方には大きな差があるはずだ。

同じニュースを見ても、「へえ、そうなんだ」で終わる人と、「じゃあこの会社の取引先や仕入れ先はどうなっているんだろう」と一歩踏み込んで調べる人とでは、見えてくる景色がまったく違う。
この記事では、その一歩踏み込むための具体的な調べ方を、初心者・中級者・上級者の3段階に分けて紹介していく。

レベル この記事で扱う内容
初心者 証券口座・NISA口座の開設、銘柄情報の入手先、PER・PBRなど基本指標
中級者 決算短信・有価証券報告書、会社四季報・業界地図、スクリーニング、IR・SNS情報の裏取り
上級者 サプライチェーン視点での連鎖的リサーチ、地政学リスク・為替のモニタリング、特許情報・業界レポート

初心者レベル:まず土台を作る

🏦 証券口座・NISA口座を開設する

2,826万口座

NISA口座数(2025年12月末時点・速報値。
政府目標は2027年12月末までに3,400万口座)

出典: 金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和7年12月末時点)の公表について」

何はともあれ、証券口座がないと株価情報の詳細も見られないし、実際に売買もできない。
ネット証券であればスマホから10〜15分ほどで申し込みが完了することが多く、本人確認書類とマイナンバーがあればほぼ完結する。

NISA(少額投資非課税制度)口座もあわせて開設しておくと、値上がり益や配当にかかる税金が非課税になる枠を活用できる。
金融庁の調査によると、NISA口座数は2025年12月末時点(速報値)で2,826万口座に達しており、政府は2027年12月末までに3,400万口座という目標を掲げている。
累計の買付額も2025年6月末時点で63兆円を超え、当初の政府目標(56兆円)をすでに上回っているようだ。

証券会社ごとの具体的な開設手順や手数料の違いは、別記事で改めて比較する予定にしている。
ここでは「まず口座を作らないと始まらない」という前提だけ押さえておこう。

なお、社長や個人事業主の方は、個人名義だけでなく法人名義での証券口座も選択肢に入ってくる。
個人の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除(最長3年)と、青色申告法人の欠損金の繰越控除(最長10年)は、国税庁のタックスアンサーで内容を確認できる別々の制度だ。

⚠️ 注意

個人の繰越控除(最長3年)と法人の繰越控除(最長10年)は、対象も繰り越す損失の性質も異なる別制度です。
年数の長さだけを単純に比較するのは誤りなので注意しましょう。この繰越年数の扱いは税制改正や個別の条件によって変わる可能性があるため、実際に法人口座での投資を検討する場合は税理士等の専門家に確認することをおすすめする。

🔍 銘柄情報はどこで手に入れる?

口座を開いたら、次は情報収集の入口を知っておきたい。
無料で使えるものとしては、証券会社アプリの銘柄検索・企業情報ページや、Yahoo!ファイナンスのニュース・指標一覧あたりが定番だ。

私自身も最初の頃は、証券会社アプリを開いても数字がずらっと並んでいるだけで、正直どこを見ればいいのか分からなかった。
結局、Yahoo!ファイナンスで気になる企業名を検索して、ニュースタブと株価指標タブを行ったり来たりするところから慣れていった記憶がある。

先ほどの調査結果からも分かるとおり、情報源として最も使われているのはインターネットだ。
ただ、次に紹介する基本指標を知らないままだと、せっかく情報を集めても「数字を眺めるだけ」で終わってしまいかねない。

📊 まず押さえたい基本の指標:PER・PBR・自己資本比率・配当利回り

指標の意味を知らずに数字だけ見ても、高いのか安いのか判断できない。
最低限、次の4つは押さえておきたい。

指標 意味 大まかな見方
PER(株価収益率) 株価が1株あたり利益の何倍か 業界平均と比べて高いか低いかを確認する
PBR(株価純資産倍率) 株価が1株あたり純資産の何倍か 1倍を割ると資産価値より株価が割安とされることが多い
自己資本比率 総資産に占める自己資本の割合 40%前後を一つの目安とする考え方がある
配当利回り 株価に対する年間配当金の割合 業種・企業ごとの水準差が大きい

ここで大事なのは、どの指標も「単体で絶対的な正解」を示すものではないということだ。業種によって平均的な水準はまったく違うし、成長段階の企業は利益より投資を優先することもある。
あくまで「その企業を多角的に見るための材料の一つ」として使うのが実践的だと感じる。

フタバ
フタバ

値動きに一喜一憂しすぎず、長い目で育てていこう。

中級者レベル:一次資料を読み解く力をつける

📄 決算短信・有価証券報告書をEDINETで探して読む

指標だけでなく、企業自身が開示している一次資料にも目を通すと、理解の解像度がぐっと上がる。
決算短信は四半期ごとに証券取引所へ提出される速報的な資料で、有価証券報告書は年に一度、より詳細な内容が記載される公式文書だ。

有価証券報告書は、金融庁が運営する開示システム「EDINET」で企業名を入力すれば誰でも無料で閲覧できる。
最初は分量の多さに面食らうかもしれないが、慣れないうちは「売上高・営業利益の推移」と「事業セグメント別の内訳」の2箇所だけを見るのでも十分だと思う。

有価証券報告書を読み始めた頃は、いきなり全ページに目を通そうとして挫折しかけた。
今は「まず数字の推移だけ拾う→気になった箇所だけ深掘りする」という順番に変えたら、続けやすくなった。

📘 会社四季報・業界地図で「業界内ポジション」を掴む

企業のポジションを俯瞰しながら投資先を見極める投資家のイメージ

決算書だけを見ていると、その企業単体の話で終わってしまう。
会社四季報(東洋経済新報社が発行する、上場企業の業績・株主構成などを一覧できる情報誌)や業界地図を使うと、同業他社との比較や、業界内でのシェア・立ち位置が見えてくる。

四季報は独自の業績予想コメントが載っている点が特徴で、企業の公式発表だけでは見えない「第三者目線の評価」を確認できる。
業界地図は主要企業の相関図や業界全体の構造を俯瞰できるので、「この会社は業界の中でどのポジションにいるのか」を掴むのに向いている。

紙の書籍だけでなく、オンライン版・アプリ版も用意されているので、スクリーニング機能なども含めて使い勝手を比較しておくとよさそうだ。

🎯 スクリーニングツールで候補を絞り込む

膨大な数の上場企業から手作業で候補を探すのは現実的ではない。
PER・PBR・自己資本比率といった指標を条件にして絞り込める「スクリーニングツール」を使うと、候補を効率的に洗い出せる。

無料のツールでもかなりの条件設定ができるものが増えてきた。
まずは無料版で「自分がどんな条件を重視したいか」を試しながら固めていくのがおすすめだ。
条件を厳しくしすぎると候補がゼロになることもあるので、最初は緩めの条件から始めるとやりやすい。

💬 IR資料・SNS(X)の情報は一次情報で裏取りする

企業の公式IR(Investor Relations、投資家向け広報)ページには、決算説明会資料や統合報告書など、決算短信よりもかみ砕いた資料が置かれていることが多い。
図やグラフで説明されているぶん、数字が苦手でも理解しやすい。

近年はX(旧Twitter)で個人投資家が情報交換をする動きも活発で、日本経済新聞でも著名な個人投資家がSNSを情報収集に活用している事例が紹介されている。
ただし、SNSの投稿はあくまで個人の見解や噂の域を出ないことも多い。
気になる情報を見かけたら、必ず企業の適時開示やIR資料といった一次情報に戻って裏取りする癖をつけておきたい。
これを怠ると、根拠のない噂に振り回されることになりかねない。

上級者レベル:サプライチェーン視点で「連鎖」を辿る

🔗 なぜサプライチェーンを辿るリサーチが有効なのか

ここからが、この記事で一番伝えたい部分だ。
決算書や指標は「その企業単体の過去の実績」を教えてくれるが、これから先の事業環境まではなかなか見えてこない。

そこで役立つのが、サプライチェーン(供給網)を辿るリサーチだ。
ある企業を分析するとき、その企業の材料調達先→販売先→さらにその材料企業自身の仕入れ先→その原材料を輸入している国→その国の世界情勢や地政学リスク(特定地域の政治・軍事的な緊張関係が経済活動に及ぼすリスクのこと)、というふうに連鎖的に調べていく考え方になる。

競合の記事をいくつか確認した限り、この視点を「個人投資家が銘柄をリサーチする手順」として整理したものはあまり見当たらなかった。
サプライチェーン分析自体は製造業のコンサル領域でよく使われる手法だが、それを投資リサーチに応用する発想は、知っておいて損はないはずだ。

🔌 半導体業界で見る「調達先→販売先→仕入れ先→輸入国→地政学リスク」の連鎖

具体例として、半導体業界で考えてみよう。
ある半導体製造装置メーカーを例に取る(あくまで考え方の説明であり、特定の企業を推奨するものではない)。

まず、その企業がどこから部品・材料を調達しているか(調達先)を確認する。
次に、作った製造装置を主にどの半導体メーカーへ販売しているか(販売先)を見る。
さらに、その調達先企業自身がどこから原材料を仕入れているか、一段掘り下げて確認する。

ここで終わらせず、その原材料がどの国から輸入されているのかを見て、その国の政治情勢・貿易政策・輸出規制の動向まで視野に入れる。
2026年前半も、米中間の摩擦や輸出規制、台湾を巡る情勢が半導体サプライチェーンの分断要因として繰り返し報じられており、JETROのレポートでも供給網を巡る政策環境の変化が指摘されている。

つまり「この企業の株価」を理解するには、その企業単体だけでなく、数珠つなぎになった取引先や、さらにその先の国際情勢まで視野を広げる必要があるということだ。遠回りに見えるかもしれないが、一度自分の手でこの連鎖を辿ってみると、日々のニュースの見え方がまったく変わってくる。

🌐 地政学リスク・為替・輸出入規制を継続的にモニタリングする

一度調べて終わりではなく、継続的にウォッチする体制を作っておくことも欠かせない。
財務省は地政学リスクとサプライチェーン分断の評価に関するレポートを公表しているし、JETROの国・地域別レポートは貿易政策の動きを追ううえで参考になる。

為替の動向も見逃せない。
原材料を輸入に頼る企業であれば、円安・円高の動きだけでコストが大きく変わることもある。
ニュースを見るときも「この動きは為替にどう影響し、それが仕入れコストや販売価格にどう波及するか」まで考える癖をつけると、単なる時事ニュースが投資リサーチの材料に変わっていくかもしれない。

🔬 特許情報・業界レポートなど、より専門的な一次情報源

さらに踏み込みたい人向けには、特許情報も有効な材料になる。
特許庁のデータベースで企業の出願状況を追うと、決算書には表れない技術的な強み・弱みの兆候が見えてくることがある。

業界団体や調査会社が発行するレポート、コンサルティングファームが公表する分析資料も、業界全体の構造やリスクを俯瞰するのに役立つ。
こうした資料は専門的で読み込むのに時間がかかるものの、その分だけ表面的な報道だけでは気づきにくい業界構造の変化に触れられる可能性がある。

まとめ:レベルに応じて「調べ方」を段階的に深めていこう

ここまで、証券口座の開設や基本指標といった初心者向けの土台から、決算書・四季報・スクリーニングといった中級者向けの一次資料、そしてサプライチェーンを辿る上級者向けの視点まで、レベル別に紹介してきた。

  • 初心者はまず口座を開設し、PER・PBR・自己資本比率・配当利回りといった基本指標に慣れることから始めよう
  • 中級者は決算短信・有価証券報告書・四季報・業界地図・スクリーニングツールを使い、一次資料に触れる機会を増やしていこう
  • 上級者は、企業単体で終わらせず、調達先→販売先→仕入れ先→輸入国→地政学リスクという連鎖を辿ってみよう

この記事は、どの銘柄が上がるか、どの投資対象が儲かるかを示すものではない。
あくまで自分の頭で判断するための「調べ方」を段階的に紹介したにすぎない。

今日からできる一歩として、まずは今気になっている企業を1社選び、決算短信を1本読んでみるところから始めてみてほしい。
慣れてきたら、その企業の取引先や仕入れ先を1つだけ調べてみる、というふうに少しずつ視野を広げていくのがおすすめだ。

出典・参考

本記事は投資の「調べ方・考え方」を解説する教育的コンテンツであり、特定の銘柄・通貨ペア・金融商品の売買を推奨するものではありません。
将来の運用成果を保証するものでもないため、実際の投資判断はご自身の責任で行ってください。
数値は調査時点(2026年7月)の公表情報であり、最新の数値は各出典元の公式ページでご確認ください。